【2025年2月】生き続ける言葉
友達3人と自分たちで計画を立てて初めて北海道に鉄道写真を撮りに出かけたのは14歳の冬でした。
当時は若者が手軽な料金で安全に泊まれるユースホステルという宿が全国にあり、私達はその中から道東のウトナイ湖という小さな湖の畔にある宿を選んでそこをベースに近くを走る室蘭本線を走るSLの写真を撮ろうという計画を立てたのでした。
孫が子供だけで極寒の北海道に行くと聞いて一番心配してくれたのは祖母でした。
それでも「行くな」とは言わず、寒さに効くだろうと長靴の中に入れるとよいという唐辛子を入れた袋を縫ってくれたりしました。
さてその時、ユースホステルの人に教えられて拾い集めたのが湖の畔にたくさん打ち上げられた不思議な形をした実。
ヒシ科の水草・ヒメビシという植物の種子なのですが、アイヌ語で「キサラタタラペカンペ」と呼ばれ、採れたては食料に、黒くなったものはお守りとしてアイヌの人々に大切にされてきたものだと聞きました。
両側に鋭い突起があり、中央に複雑な顔のような模様のあるその形は確かにアイヌの守り神にも見えました。
初めての旅、初めての北海道、何もかもが新鮮でしたが、中でもこれは初めて触れたアイヌの物語とも相まってたいそう珍しく感じられ、たくさん拾ってお土産として持ち帰りました。
するとそれを何より喜んでくれたのが祖母だったのです。
聞き慣れぬ「キサラタタラペカンペ」という名前も面白がって手帖に書きとめ、手許の小引き出しにしまっていつまでも大切にしてくれました。
そして私がその後どこかに旅行に行くというとその度に「お土産は高い物など買わなくていいから、あのペカンペみたいなものをお願いね。ああいうものが旅の何よりのお土産なのよ。」と声をかけてくれました。
祖母が亡くなってもう30年になりますが、今でもどこかに出かけるとあの祖母の言葉が蘇り「この地のペカンペは何かな・・・」と探している自分がいます。
祖母の言葉はいつまでも私の中で生き続け、旅の味わいを深めてくれています。